持橋 大地

統計数理研究所 数理・推論研究系 准教授

メッセージ

どうぞよろしくお願いいたします。

研究計画の概要

言語に関する研究はこれまで、主に伝達される内容を対象としてきた。これは言語が人類の生存の手段であったことによるが、生存が保証された文明では、そうした客観的情報ではなく、主観的な情動を伝える言語表現が歌や詩のような言語芸術として発達する。こうした情動の問題に科学的にアプローチするために、本課題では言語芸術に触れた際の fMRI による脳活動の測定によって、(A) 言語により、脳内でどのような情動が喚起されるのか、その際に (B) どのような言語表現や言語構造が、どのような情動をもたらすのか、を脳科学、言語学および自然言語処理の手法によって明らかにする。

これにより、工学的にも脳の働きに基づき、歌や小説のもたらす実際の情動的印象を予測したり、目的の情動をもたらす広告コピーを生成すること等が可能になると考えられる。

背景および本研究課題で明らかにすること

言語に関する研究は、言語学および自然言語処理/計算言語学のいずれも、主に伝達される内容を対象としてきた。 これは、言語が生存あるいは集団生活を行う際に、必要な情報を伝達する手段として発達してきたことによっている [岡ノ谷 2003]。 しかしながら、生存がほぼ保証された文明においては、そうした客観的情報を伝えるだけでなく、主観的な情動を共有する手段が発達する。 これらは、(生存のための情報としてではない) 絵画や、音楽あるいは踊りといった表現形式をもつが、言語においては典型的には1 歌や詩として表れる。 こうした言語芸術においては、外界の客観的記述を伝えることが目的ではなく、それを通した自らの主観的な情動の表出と伝達が問題となる。

しかし、こうした情動を言語のテキストからのみ読み取ることは困難である。 情動の記述はわれわれの実体験と分かち難く結びついており、また言語の触知的要素も、テキストからのみ読み取ることはできないからである。 たとえば「クラムボンはカプカプわらったよ」(宮沢賢治『やまなし』) の「クラムボン」の語感や、「カプカプ」にわれわれが感じる感覚をテキスト解析によって得ることはできないし、「寒暁のみな独りなる始発かな」(兼城雄) の俳句に、われわれが体験を通じて感じる様々な情感がどこかに記述してあるわけではない。

したがって、こうした情動の問題に科学的にアプローチするためには、われわれが情動を感じている器官、すなわち脳の測定によるほかはない。 すなわち本研究課題は、従来の (計算) 言語学に欠けていた言語の情動的機能をデータに基づいて客観化するために、(A)言語により、脳内でどのような情動が喚起されるのか、その際に(B)どのような言語表現や言語構造が、どのような情動をもたらすのか、を脳科学と言語学および自然言語処理の手法によって明らかにすることを目的とする。 したがって本課題は、言語芸術への計量的アプローチであるともいえる。 これにより、工学的にも脳の実際の動きに基づき、歌や小説のもたらす印象を予測したり、目的の情動をもたらす広告コピーを生成すること等が可能になると考えられる。

参考文献