情動情報学とは

代表あいさつ

2021年度 科研費学術変革領域研究(B)として「情動情報解読による人文系学問の再構築」が採択されました(2021-23年度)。

これまでの人文系領域の脳研究は、それぞれの領域で提唱された概念(倫理的葛藤や経済的合理性など)と対応する働きをする脳領域を探すことを目指してきました。しかしそれは、結局のところ、抽象的な概念を脳という具体的な構造物に置き換えることであって、興味深い研究ではあるものの、学問そのものを大きく前進させるほどのインパクトは望めませんでした。

今回発足した研究領域「情動情報解読による人文系学問の再構築」では、脳活動から解読した情動情報に基づいて、人文系の学問における新たなモデル、新たな概念を提示することを目指しています。このアプローチによって、オークション等の経済制度を人間の情動的反応に最適化した形に設計するなど、実社会へのフィードバックを意識した研究を進めて行きます。

領域代表
近添 淳一

領域概要

心理学・言語学・経済学・美学といった人文系学問では、人間の行動やその記録から、心的プロセスのモデルを作ります。こうしたモデルを考えるにあたって、情動が人間の行動にどのような影響を及ぼすかを理解することが重要ですが、個人が「どのように感じているか」を直接計測することが難しいことから、情動の働きを直接モデルに取り込むことは簡単ではありませんでした。

機能的MRIは、生きた人間の脳活動を計測できる手法で、被曝などの心配のない安全な手法であることが知られています。近年、機械学習を使った解析技術の進歩によって、脳活動から個人の情動状態を推定することが可能になりつつありますが(Chikazoe et al., 2014; Pham et al., 2021)、解析上の技術的ハードルも高く、脳活動から推定した情動状態の情報を取り込んだ言語学・経済学・美学モデルはほとんどありません。

本研究領域においては、機械学習を用いた機能的MRI研究の専門家である近添(アラヤ)が中心となって、自然言語処理の専門家である持橋大地先生(統計数理研究所)とミクロ経済学の専門家である渡辺安虎先生(東京大学)、および美学研究の専門家である石津智大先生(関西大学)と協力し、情動から言語・経済・芸術を理解するような新しい学問の枠組みを作っていきます。

メンバー紹介

A01

近添班

機能的MRIによる 両価的価値情報の 統合処理過程の解明

A02

持橋班

情動をもたらす 言語芸術の脳科学

A03

渡邉班

情動的影響の 計量経済学的構造 モデル推定

A04

石津班

快不快を超える 美学的体験とその心理的 効果に関する 認知神経科学的研究